鳥尾の少年時代   その9   もどる


NO.27 「レッドキングのツメ」


デパートでウルトラマンショーがあると聞いたので、学校の帰り友達の家の軒下にかばんを隠して見に行った。(区外で街中の学校に通っていたのでデパートが近かったのです。)

案の定もう会場はちびっこでチョー満員だった。しかし、体の小さかった俺はちょろちょろとあっという間に一番前の見やすい位置をゲットすることに成功した。つまり割り込みですね…良いこの皆さんはこんな悪い事してはいけません。
そしてあの伝説の音楽とともにウルトラマン登場!「わーあ」いっせいに上がる歓声、会場は興奮のるつぼと仮した!幼稚園くらいの子がウルトラマンの真似を鼻水をたらしながらやっていた。荒れ狂うレッドキング凄まじい乱闘シーン、もう俺達は現実とショーの区別がつかなくなっていた。ある事が起こるまでは…

「いて!」とっぜん俺の隣の子が声をあげた。なんとレッドキングの足のツメが取れてその子の頭に当たったのだ。
「ツメ取れたよ!」その子が大声で叫ぶと、急にレッドキングが足を抱えて苦しみだしそれに反応するかのようにウルトラマンがレッドキングの足に向かってスペシュウム光線をしたものだから会場は大爆笑となった。
すぐに係りの人がツメを受け取りに来て「ちゃんとレッドキングに返しておくからね」とそのこの頭をなでて去っていった…
俺だったらそのツメ宝物にして持って帰ったのに惜しい事した。


NO. 28 「バスよりも早く」


俺は足が速い!リレーの選手にもえばれた。特に逃げ足が速くスズメバチの巣を壊して逃げた時は世界記録じゃないかと思うくらい逃げた…こんな事があった。

今日はかあちゃんとデパートへ買い物に行くことになっていた。ふだんはついて行かないのだが、なんか持ってもらいたい荷物があるらしく「荷物運びしてね終わったらラーメン食べさせてあげるから」その一言で俺は買い物に付き合うことをこころよく引き受けたのである。バスの時刻表を見ると、もう少しでバスがくる。でもこのバスはいつも少し遅れてくるのでまだ大丈夫だろうとバスどおりに出た。ところが今日に限って定刻どおりバスが走ってくるではないか!

二人は走ったこのバスを乗り過ごすとあと30分次のバスが無いのだ。そこで俺はまたまた世界新記録並みのスピードで走った。バスはどんどん近づいてくる俺は走ったバスよりも速く走った!「やったー!」俺はバスに乗ることが出来たのだ。と同時にバスは出発した。走り疲れとぼとぼ歩いているかあちゃんを残して…

後でこってりかあちゃんにしかられました。「この子はほんとに役に立たない子なんだから」

NO. 29 「長靴スケート隊」

稲刈りの終わった水田は冬になるとわれわれ“青山ハナタレ軍団”の格好の遊び場と化す。水田に丁度よく溜まった水が冬の寒さで凍るのだ。そこで何をするかって?スケートに決まっているではありませんか。池の上の面だけが凍った物と違って泥の上の水が凍った物は転んでも氷にヒビが入るだけで割れはしない。しかも泥がクッションの役目をはたして相当派手に転んでもほとんど怪我をしないのだ。

マイスケート靴があれば一番いいのだろうけれど、貧乏な俺たちにスケート靴があるわけもなく、もっぱら“長靴スケート”だ。しかも俺の長靴は兄貴のお下がりだから滑り止めがとっくの昔に磨り減って靴のそこはツルツルだ。それが氷の上をすべるには返って好都合なのだ。

いくら新潟に水田が多いからと言って全部の水田でスケートが出来ると言うわけではない。俺たちの縄張り2キロ四方の中でも条件のバッチリあった2〜3ヶ所のみ滑走可能なのだ。当然、隣り近所の子供たち全員が目をつけているから、自然の遊び場としては盛況で軽く30人は集まってくるだろうか…それじゃあ場所取りの為にさぞや早くから出かけたろうって?とんでもない!天然のスケート場は早く駆けつけてはいけない。“あわてんぼうさん”が散々滑った氷の方がよく滑るのだ。

程よく氷の面が整った所で年上の者の号令で俺たちはスケート場へと向かった。(いつも“年上の者”と言っているが今日から“ドングリ君”と言う事にします)俺たちはいつも7〜8人で行動をしている。そのメリットは後から行っても一番いい場所をすぐ取れるところにある。人はそれを“割り込み”と言う。それがどうした!全て大人の世界も子供の世界も数の多い者と声の大きい者がちだ。文句あっか!

ここでいつものようにドングリ君が俺たちの露払いをしてくれる。わざと寒いのに上着のボタンを外し上着をバタバタさせながら派手なパフォーマンスで子供たちの真中へ奇声をあげながら滑っていった。(ボタンを外すと少しでも体が大きく見えて威圧感がますと彼は考えたのであろう。子供ながら実に理にかなった行動である。ここまでくるともう本能としかいい様が無い。何やらしても、おもしろい男だったから俺たちはドングリ君が好きだ)

身の危険を感じた“よその町”の子供…ならび、“近所の子”だけどちょっと抜けてる子などが、滑りにくい脇に寄ったのを確認しておもむろに俺たちは途中で拾った竹の棒に手ぬぐいを縛り付け、訳のわからない奇声を上げながら、意味もなく竹の棒を振り回しながら突撃していった。……ただ一人俺を除いて…俺は長靴スケートが下手だ。

しかしここで遅れをとっては仲間に白い目で見られる。ツルツルの氷の上を滑るというより四つん這いになって俺はとにかく皆に遅れないように走った。もたもたしていると“青山ハナタレ軍団”から除名されるのだ。子供の世界も厳しい。

ここまで書くとなんてわがままな軍団と思うだろうがそこが子供の世界の違う所だ。いつのまにかよその町の子供たちも俺たち(正確にはドングリ君)に付いていっしょに走り出した。年功序列、年上の者=リーダーなのだ。またドングリ君も心得ていてちゃんと訳へだてなく遊んでくれる。年少者ばかりだとただ氷の上を滑って終わりだが、そこに年上の者が入るとまったく別の遊びになるから不思議です。

こんな遊びをよくしてもらった。“人間ハンマー投げ”と言ってハンマー投げの要領でドングリ君が俺たちを氷の上に放り出してくれる遊びだ。まず氷の上に滑り止め用の雪を積み上げ(これがハンマー投げのサークルだと思えばいい)それを中心として“ハンマー投げの選手”の真似をしたドングリ君が一人一人腕をとって氷の上を回転させ反動が付いた所で腕を放してくれるのだ。もちろんまともに滑れる者はまれでほとんどの者がひっくり返って腹とか背中で滑っていく…実にワイルドな遊びだ。

それがおもしろい♪背中やお腹に氷のかけらや雪が入って寒いはずなのに何べんも何べんもおねだりする俺たち…汗びっしょりで頭から湯気を立てながらも切がいい所まで投げ続けてくれるドングリ君…“長靴スケート場”にいつまでも俺たちの歓声がこだましていた。