鳥尾の少年時代    その2   もどる


NO.5「キリギリスと青山ハナタレ軍団」

チョンギース♪チョンギース♪遠くでキリギリスが鳴いている日本の風物詩だ。30分後いつもの年上の者をリーダーとする「青山ハナタレ軍団」はキリギリスを捕まえるべく、いちだいプロジェクトを決行することにした。手に手にひっすいアイテムを持って…

虫かご、キリギリスをおびき寄せるためのスイカ(これはほとんど餌にする前にひもじくて俺たちが食べてしまう)オニヤンマがいると悪いのでそれを捕るための釣りざおを改造した伸び縮み自由な虫捕りアミ。草むらにいるため丈夫なメダカアミでも歯が立たないので、その代わりの直径30センチくらいの食器洗いようのアミで出来ているボールこれだけそろえば万全だ。

遠くから見ると海に行くのか虫捕りに行くのかわからないコッケイな一団だったが、キリギリス目当ての同じようなグループがそこら中にいたので目立たなかった。ターゲット発見!10メーターくらい前の草むらからキリギリスの鳴き声がする。まず全員風下に回り足音を消すため履物を脱いだ。(履物を履いているとつい安心していいかげんな歩き方をして大きな音を出してしまう)裸足になると細い枝や鋭い草で足を傷つけるのがいやな物だから自然と忍者のような忍び足になって足音を消すことが出来る。

年上の者が手を上げた。キリギリスまでの距離約2メーター、俺たちはキリギリスを中心に自分の周りの草を音もなくつぶし始めた。およそ3分後キリギリスを中心とした直径2メーターのミステリーサークルが出来た。(こうしておくと草の中から外に飛び出したキリギリスをすぐ発見することが出来る)
あとはこれを繰り返し草の直径をだんだん小さくしていけば自然と虫をゲットできるのだ。まるで時間の止まったような気の長い作業だがほぼ100%目的を達成することが出来る。手間を惜しんでは何事も達成できない!行動あるのみ!(当然キリギリスは人の気配を感じ鳴くのを止めるが、その場から逃げる事はない。もっとも逃げても無駄なのだ。そうなった時のことを考え草をつぶしてあるのですぐ発見できる)

この方法をその日、参加した人数分繰り返す。どうしても人数分捕れない時は、年上の者が自分の家で飼っているキリギリスをくれた。現場で作戦に参加しないでセミ捕りやターザンゴッコをしていてもキリギリスはちゃんと貰えたのである。実に、りちぎなリーダーであった。

NO.6「どんぐりころころ パート1」

どんぐりにも色々種類がある。俺たちの間で重宝がられるのは、まんまるい「クヌギ」の実だ。「マテバシイ」などの実でもいいのだがあれはわりと簡単に手に入ってしまって面白くない。(でもヤジロベエを作るには都合がいい)やっぱりどんぐりと言ったら「クヌギだ」

どんぐりの木に実がたわわになった頃、「青山ハナタレ軍団」は隣町の山に「どんぐり取り」に行った。近くの山にもあるのにわざわざ隣町の山まで取りに行くのには、訳がある。少しくらい未熟でもいいからとにかく取ってくるのだ。地元の子供が取る前に…どんぐり取りの極意は、早い者勝ちだ。(後手に回った者は、一粒のどんぐりさへ、手に入れることは出来ないであろう)

あらかた隣町のどんぐりを取ってからゆっくりと自分たちの縄張りのどんぐりを取るのだ。もちろん気を抜くとその逆もある。隣町の子供たちが俺たちがビー玉をしている間にどんぐりの木の実を取っていったことがあつた。

俺たちは別にお互い様、先をこされたな…と思っただけだったが年上の者はえらくプライドを傷つけられたらしく「何でおめー達わったのどんぐり取って行くんだゃ?!あそこの木は俺んとこの木だすけ、取ると駄目なんだろ、今度やったら泣かすすけな!」

※「どうして君達、僕達のどんぐり取っていったの?!あそこの木は僕の家の木なんだから取っちゃ駄目なんだよ。今度やったら泣かすからね」

と隣町の子の家に怒鳴り込んで行った。俺たちはそれを10メーターくらい離れてじっと見ていた。(本当はこんな喧嘩について行きたくなかったんだけど、ついて行かないと今度遊んでもらえない恐れがあるからシブシブついて行った)

俺たちの前でカッコいい所を見せたためか帰りは、凄く機嫌がよく、皆にアンパンを買ってくれた。…ついて来て良かった♪

NO.7「どんぐりころころ パート2」

どんぐり林の中に入るとウキウキしてくる。まず下に落ちたばかりのきれいな、どんぐりを拾う。よく見ないと、かじったあとがあったり虫が食べた穴が開いていたりと結構注意が必要だ。落ちている物は必要以上に拾うと年上の者にしかられた。「残しとけよ。ネズミや虫の分だから」

まず年上の者とその子分、少年Aが木に登った。どんぐりの沢山ありそうな枝にロープを縛ると下にいる俺達が歓声を上げながらメチャクチャに木を揺らす。(何でもそうだが子供は、何かやる時、必ずなんらかの奇声を発する物だ)ストンストンこれであらかた落ちてくる。あとはめぼしいどんぐりをむしりとって完了だ。この方法はどんぐりの他に色々な物が落ちてくる。クワガタ、カミキリムシ、ガ、しかし中には落としてはいけない物もある。そう、蜂の巣を落としてしまったのだ。

それこそ蜂の巣をつついたような騒ぎになった。幸いアシナガバチの巣だったので事なきを得たが、あれがスズメバチの巣だったらと思うと今でもぞっとする。しかし昔の子は抜け目がないので、どんぐりの入ったズタ袋だけはしっかり放さなかった。

年上の子の家の土間に俺達はゴザを引いてどんぐりのぼうし取りにかかった。熟した実は簡単に取れるのだが前にも言ったが未熟な実まで、もいである物だから思うようにぼうしが取れない。手はもうシブや樹液で茶色になってしまった。しかも無理にむしり取る物だから爪の間に、ぼうしのカケラなどが潜り込んでだいぶ深爪になっている。これは後で非常に痛くなる。板か何かもっと硬い物で削り取ればいいと思うのだが、その時の俺たちにそんな頭のいい考えは浮かばなかった。

年上の子は、むき終わったどんぐりを年に関係なく平等に分けてくれる。特に小さい俺達には特別でっかくて、カッコイイどんぐりをいつもくれた。「おまえ達今日は声がよく出ていた。やっばり遊ぶときは騒がないとな…」どうやら木をゆする時の奇声が気に入られたようだ。「今度の日曜これで『どんぐりレース』するから持ってこいよ」年上の子が神様に見える…こんな立派な、どんぐり下さるなんて!俺達は皆涙した…そんなわきゃないか!

家に帰るとどんぐりを1個1個、磨いて枕元に置いて寝た。どんぐりひとつで、こんなにも幸せな気分になれるとはなんて俺は単純なんだろう。